相続の基礎知識

Vol.2

遺産相続手続きの期限と期間のまとめ

  • 相続が発生した時、ある人は「相続の期限切れで遺産が誰かの物になってしまうのでは?」と思われるかもしれません、またある人は、「そんなのほっといても大丈夫だよ!」とか、あるいは「役所が不都合の場合は知らせてくるよ」とか様々な捉え方、考え方をされている人がおられるようです。実際に相続後、遺産相続の手続きをそのままにしておいても遺産が誰かの物になったりすることはありませんが、場合によってはそれ以上のリスクがあることをしっておきましょう。以下にその場合を見てみましょう。

    遺産相続期限のリスク

    相続放棄の期限 3ヶ月以内 相続放棄をしないと多額の借金を相続する可能性がある
    所得税の申告期限 4ヶ月以内 申告をしないと余計な税金がかかる
    相続税の申告期限 10ヶ月以内 申告をしないと相続税の軽減措置が受けられない
    遺留分の請求期限 1年以内 請求をしないと自分の取り分が減損することになる
    遺産分割協議 期限はない ただし、遺産分割協議をしないと下記のリスクが発生。
    • 故人の口座が凍結されて預貯金を下ろせない
    • 自分に財産が1円も入ってこない
    • 相続人の誰かに財産を隠される可能性がある
    • 株式などの評価が下がる可能性がある
    • 遺産が相続人全員の共有物のままとなり土地の管理が不明
    • 売買などの段階で、相続人全員の許可が必要

    意外と時間があると思って相続手続の期限をないがしろにしていると、高確率で面倒なことになるケースが非常に多いです。

    1. 借金の遺産相続から逃れる期限は3ヶ月以内

    相続手続の期限は被相続人が亡くなった直後から発生します。下記の図を参考に手続きの全体の流れを見ていきましょう。

    相続手続きとその期限

    相続手続きとその期限

    全体の流れを知ることで、「いつまでに何を?」「急いでやらなくてはいけない手続きは?」「期限が迫っているのは何?」などのことを大体理解することができます。でも、専門的な用語もあり、初めての場合(初めてが殆どかと思います)戸惑う事や、理解不能な事も多いので、専門家を交えて解決する事が良いでしょう。

    参考リンク:相続の基礎知識Vol.1「相続相談の問題別・相談先のまとめ」

    ではまず、初めの上表の内容を紐解いて参りましょう。

    相続放棄とは

    相続人が相続できる遺産を受け取らないことです。例えば被相続人が生前抱えていた借金が他の財産よりも多い場合「相続放棄」をすることによって、借金の相続を免れることができます。家庭裁判所に申し出る必要がありますので、早めに弁護士に相談して対応しておきましょう。

    限定承認とは

    相続人がプラスになる範囲に限定して借金を引き継ぐという方法です。あきらかに借金の金額が他の財産より多いケースや、借金の額自体が不明なケースなどで有効です。下記の図にてどんな時に有効か参考にしてみてください。
    例えば下記の場合は、最終的に相続人が「単純継承するか」「限定承認するか」「放棄するか」を判断しなければなりません。

    限定承認の例

    これも所定の手続により家庭裁判所に申し出る必要があります。早めに弁護士に相談して対応しておきましょう。

    2. 遺産相続による被相続人の所得税と相続税の申告期限

    所得税の申告(準確定申告)期限は4ヶ月以内

    被相続人が死亡した年の1月1日から死亡の日までの期間の所得に関して、相続人が代わりに確定申告をしなければなりません。その確定申告を「準確定申告」といいます。この申告は相続人全員が納税者となり、被相続人の所得税の申告を行う義務となります。これは所轄の税務署に申告します。

    相続税の申告期限は10ヶ月以内

    被相続人の財産が一定の額を超える場合は、相続の開始日から10ヶ月以内にその旨を申告する必要があります。

    3,000万円+(相続人の人数)×600万円

    ※平成25年以降

    もし、この金額より相続財産が多い場合は相続税の申告が必要になります。

    例)相続財産:1億円/相続人:3人の場合
    3,000万円+(3人)×600万円=4,800万円
    遺産の総額:10,000万円-4,800万円=5,200万円

    この5,200万円が課税の対象になります。なお、相続税の計算は相続人それぞれが受け取った財産に対して、それぞれに相続税が算出されます。従って期限である10ヶ月以内に遺産分割協議が終了していることが前提です。

    もしも遺産分割協議が完了していない場合「税務署長に対し申告期限の猶予の許可をもらう」又は「法定相続分で暫定的な申告を行い、協議完了後に修正申告を行う」ことが必要になります。
    ※この相続税の計算には特例があるので税理士に相談されることが良いでしょう。

    相続税の納付期限も10ヶ月以内

    相続税の申告をして実際に相続税を納付する期限も10ヶ月以内となります。現金だけではなく物で納める物納の場合も申告期限の10ヶ月以内に申請書を提出して許可を受ける必要があるので、早めに対応することをお奨めします。

    3. 遺留分に関する請求期限は1年以内

    遺留分とは?

    ドラマなどで被相続人が亡くなった後「私の財産は全て他人Aに譲る」と書かれた遺言書が見つかり、被相続人の財産が全てAへ相続されてしまいそうになる場面などがあります。残された遺族にしてみれば「Aに財産を全て持っていかれるのは許せない」となるでしょう。 それを防ぐために、相続人に最低限の財産を保証する制度が『遺留分』というわけです。

    万一相続人が遺留分に満たない財産しか相続できなかった場合は、相続開始から1年以内に「遺留分の減殺(げんさい)請求」を行うことで、遺産を取り戻すことができるのです。

    遺留分の分配方法

    下記は通常の遺留分の割合例です。

    遺留分の割合

    例1)Aと被相続人の妻・子がいた場合
    妻・子:全員合わせて被相続人の財産の1/2(複数の場合人数分で分割)
    妻  :被相続人の財産の1/4
    子  :一人当たり被相続人の財産の1/8
    (子が2人以上の場合人数分で分割)
    例2)Aと被相続人の子がいた場合
    子のみ:全員合わせて被相続人の財産の1/2(複数の場合人数分で分割)
    子  :一人当たり被相続人の財産の1/4
    (子が2人以上の場合人数分で分割)

    ※亡くなった方の兄弟姉妹には遺留分はありません。

    4. 相続税軽減に関する申告期限は3年以内

    配偶者の相続税軽減

    配偶者(妻)が相続した遺産のうち、法律で定められた1億6,000万円までの遺産には、相続税の納付が免除されます。この特例の適用は、相続税の申告期限である10ヶ月までに遺産分割が確定していることが条件です。もし確定していなくてもその後3年以内に分割された場合は適用されます。

    これは遺産分割がまだ決まっていない場合に、相続税の申告期限である10ヶ月の段階で暫定での申告書をひとまず行ってそれに対する税金を納めた場合に限られ、その後3年以内に遺産分割をして「最終的に私はこれだけの財産を相続しました。」と申告すれば、先に納付した税額を還付してもらえるケースがあるというものです。

    小規模住宅地の課税価格の特例

    被相続人が居住用または事業用に使っていた住宅の240㎡までの部分において、住み続ける場合や事業を継続する場合など、一定条件を満たせば最大80%の減税が可能になるという特例です。

    農地等の相続税猶予

    相続した遺産に農地が含まれている場合は、相続人が事業を引き継ぐという条件で、相続税が減税されます。ここからさらに“法律が定める一定条件”を満たすことで、より多くの減税ができる可能性もあります。

    この特例を受けるには、数種の書類と相続税の申告書などを用意しなければなりません。そして、その書類等を税務署に提出し、“法律が定める一定条件”をクリアする必要があります。農地等の相続に関する相続税の減税をお考えの場合は、必ず期限前に税理士などの専門家に相談しましょう。

    5. 遺産相続の申告期限が迫って来たら?

    相続放棄・限定承認の申告期限が迫って来たら?

    相続放棄・限定承認は3か月以内という期間がありますが、なかなか決まらない場合は、家庭裁判所に「相続の承認または放棄の期間伸長を求める審判」というものを申し立てましょう。無事、裁判所に認められると期間を延長をすることができます。

    必要な書類
    相続の承認又は放棄の期間伸長申立書
    申立人の戸籍謄本
    被相続人等の戸籍謄本
    被相続人等の除籍謄本
    被相続人等の改正原戸籍謄本
    被相続人等の住民票除票または戸籍附票

    相続税の申告期限が迫って来たら?

    相続税の申告期限は相続開始後から10ヶ月です。それまでに遺産分割協議が確定しないない時は「未分割の申告」を行いましょう。これはひとまず定められた法定相続分で各相続人が相続したものとして申告・納税し、協議がまとまった段階であらためて修正を申告することで、還付または追加の納税などの形で再調整するものです。遺産分割が確定せずに「期限の申告」や「相続税の納付」を行わないでいると、延滞税などの余計な税金が発生することになりますので気をつけて下さい。

    期限を過ぎてしまうと税務上の特典である「配偶者の相続税軽減」や、「小規模住宅地の課税価格の特例」「農地等の相続税猶予」なども受けられません。「未分割の申告」を出す時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を一緒に提出すれば、3年以内に分割協議が確定した時点で特例を受けることが出来ます。

    遺留分の申告期限が迫って来たら?

    遺留分の減殺請求権は被相続人が亡くなってから1年ですが、実際は「遺留分があることを知ってから1年、または相続開始から10年まで」が正確な期限です。

    この遺留分減殺請求には特に決まった方式はなく自分でもできます。通常は「配達証明付きの内容証明郵便」を送りますが、特に決まった方式はないので請求書を送る必要もありません。ただし、後々のトラブルを避けるためにはなるべく書面で請求しましょう。

    遺留分に関する問題は、当事者同士の話し合いで済むならそれに越したことはありませんが実際は話し合いでは解決しないケースが多く、弁護士を通じて内容証明郵便で通知するなど、第三者を間に入れた方が一般的です。

    6. 遺産相続の期限が過ぎてしまったら?

    遺産相続の期限が過ぎてしまったら?

    相続後何もせずに、相続税の申告期限である10ヵ月以内の申告を忘れて期限を過ぎてしまった時は、「相続税の期限後申告書」というものを出すことで一応の解決が可能です。期限内に出す申告書と中身は同じですが、期限を遅れた分だけ延滞税等をとられることになります。残念ですがこれは回避出来ません。
    そのほかの申告期限についても同じです。場合によっては延滞税が発生するケースもあるので、もし過ぎてしまった場合は弁護士・税理士に相談しましょう。

    7. 相続登記には期限はない?

    相続登記には期限はない?

    不動産の所有者が死亡した際にその不動産の名義を変更する手続きを相続登記といいます。ただし、法的には不動産の名義の変更をする義務や期限もありません。期限もないので放置しておいても特に問題はないからといって放置しておく方もなかにはいらっしゃいます。しかし、そのままでは不動産を売却できなかったり、他の相続人に処分される可能性があったり、処分された後では相続登記ができなくなる…。などのデメリットがありますので、問題になる前にやっておきましょう。

    この登記は個人でもできますが、想像以上に面倒な手続きや手順が必要になるので、まずは弁護士や司法書士に相談だけでもしてみましょう。

    8. おわりに

    おわりに

    期限を把握しておくと後々の色々な面倒な事を回避できる可能性が高いです。是非、現在のご自分の状況を確認され、把握して下さい。そしてなるべく早い段階で相談という形からでも良いかと思いますので、専門家にお願いをされることを強くお奨めいたします。

    また、今後色々な書類等をご用意し、渡されると思いますが、それらは今後必要になる場合があるかもしれません。一つのファイルとして、コピーなどをこまめに取りながら、纏めておかれると良いと思います。