相続の基礎知識
Vol.1
「相続問題」あなたがいざその当事者となった場合、誰に何を相談すれば良いのでしょうか…?遺産相続の専門家は大きく分けて「弁護士」「司法書士」「行政書士」「税理士」がいますが、不動産などに関して言えば「土地家屋調査士」「ファイナンシャルプランナー」も必要になる場合がありますし、それぞれが協力体制にある場合もあります。そこで、どの専門家に何を頼めば効率よく相続手続きが進められるのか、まずは下の各専門家が対応できる業務一覧を見てください。
各士業の業務一覧
弁護士 | 司法書士 | 行政書士 | 税理士 | |
---|---|---|---|---|
相続調査 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
遺産分割協議書作成 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
代理人としての交渉 | ◯ | × | × | × |
遺産分割の調停 | ◯ | × | × | × |
遺産分割の審判 | ◯ | × | × | × |
相続登記 | × | ◯ | × | × |
相続税申告 | × | × | × | ◯ |
基本的な窓口は「弁護士」「司法書士」「行政書士」「税理士」ですが、「土地家屋調査士」「ファイナンシャルプランナー」はじめ「建設会社」「不動産会社」なども相談の窓口になる場合があります。ここでは各専門家が対応できる業務範囲や相談する際のポイントなどを詳しく解説していきます。
一般的に相続と言えば、弁護士に相談依頼する方が多いと思います。なぜなら相続人の間で遺産分割を巡って揉めたり紛争が起きている場合が多いからです。日頃から様々な交渉・調停などの業務に従事している弁護士は、その場合の強力な相談相手となります。紛争時の調停・訴訟は弁護士の独占業務ですから、法律上のトラブルが起きたら弁護士へ相談するというのは適切な流れです。
弁護士は代理人業務にも対応でき、代表的なものに「遺言執行」があります。生前に弁護士のサポートの下で遺言書を作成しておくと、被相続人が亡くなった後の相続を託すことができるのです。弁護士は遺言執行者となって、財産を管理して遺言にそって適切に相続や名義変更をおこなってくれます。
最近増えているのは、親の認知症が絡んだ相続問題のケースです。認知症で正常な判断ができなくなると当然に遺言も残せなくなります。そういった場合、相続人の間でトラブルが頻発します。家族は親が認知症になった時点で遺産相続について考える事は必然とするべきです。
弁護士は相談者の代理人となることで相続実務だけでなく相続準備や被相続人の生活、さらには相続人への利害調整まで総合的に助言・フォローしてくれる、相続問題にもっとも強い味方といえるでしょう。
140万円以下の簡易な事案なら弁護士に変わって法律代理業務ができるのが司法書士です。司法書士の遺産相続における独占業務は「不動産登記手続き(名義変更)」です。また、不動産を相続する場合の名義変更は司法書士にしか対応できません。従って土地や建物など不動産を相続する場合、司法書士に頼むのが一般的です。
実は、この登記手続きの名義変更は死亡後いつまでという期限制限はありません。しかし亡くなった親の名義のままでは、「兄弟が勝手に登記変更して処分(売却)してしまった」「相続人の誰かが借金により差押えを受けた」などいろいろなトラブルが生じます。また、相続後に相続人の誰かが死亡した場合、その死亡した相続人の親族(妻や子供)が新たに相続人になるため、手続きが複雑になり費用も余計にかかる場合があります。死亡後はできるだけ早く相続登記をおこなうことをお奨めします。
名義変更の際には相続調査(戸籍収集)が必要です(「預貯金」「株式」の名義変更をおこなう際も必要)。通常の場合、戸籍謄本は管轄の市役所など各自治体で取得できますが、被相続人が過去に本籍を移動していた場合に各自治体への照会が必要になったり、また戸籍が様式変更される前の古い戸籍の取得が必要な場合も発生します。これらの「相続調査」及び「相続登記(名義変更)」に関して、一括で司法書士に依頼する事で、相続人が行うべき相続手続きの簡略化を図る事が出来ます。
閉話休題
親が亡くなった場合など、管轄の市役所など各自治体の窓口では、
これから相続人が行わなければならない事の一覧表を用意している場合が殆どです。
まずは、管轄の市役所など各自治体の窓口へ行かれると良いでしょう。
税理士の遺産相続における独占業務は税務署への申告手続きです。他人に関するこの業務は、税理士のみが出来る業務です。
ところで、相続税は全ての方が掛かるのでしょうか…?以下に、2013年度における「死亡者数に対する相続税課税件数の割合」を示す資料があります。
これによると、2013年度の相続税が課税される被相続人(死亡者)は4%程度です。但し、2015年以降は相続税の基礎控除額が縮小されたことで、課税される人の割合が増えることが予想されます。
死亡者数に対する相続税課税件数の割合(2013年)
死亡者数(人) (a) |
相続税の課税件数(件) (b) |
相続税の課税があった 被相続人の割合(%) (b)/(a) |
納税者である 相続人数(人) |
---|---|---|---|
1,268,436 | 54,421 | 4.3 | 130,545 |
注:「課税件数」は、相続税の課税があった被相続人の数。死亡者数は、厚生労働省「人口動態統計」による。
国税庁「平成25年分の相続税の申告の状況について」
被相続人1人あたりの相続税額(2013年)
課税価格 | 相続税額 | |||
---|---|---|---|---|
合計額 (億円) |
被相続人1人あたり 金額(万円) |
納付税額 (億円) |
被相続人1人あたり 金額(万円) |
合計額に対する 納付税額の割合(%) |
116,253 | 21,362 | 15,367 | 2,824 | 13.2 |
国税庁「平成25年分の相続税の申告の状況について」
基礎控除額+(1人当たり基礎控除額×法定相続人の数)=基礎控除額の合計
現在、遺産相続では、法定相続人が1人の場合、親から相続した預貯金・株式を算定して3,600万円を超えた場合には相続税の申告が必要です。(法定相続人の数によって基礎控除額の合計は変わります)
基礎控除額
基礎控除額 | 1人当たり | 法定相続人1人の場合の 基礎控除額の合計 |
法定相続人2人の場合の 基礎控除額の合計 |
|
---|---|---|---|---|
平成27年以前 | 5,000万円 | 1,000万円 | 6,000万円 | 7,000万円 |
平成27年以降 | 3,000万円 | 600万円 | 3,600万円 | 4,200万円 |
差額 | 2,400万円 | 2,800万円 |
この数字を参考にして、相続税を把握出来れば良いのですが殆どの方が、中々数字そのものを計算が出来ないようです。何故なら、専門家ではありませんから、普段あまり必要ないからです。例えば「相続する不動産の価格は幾ら」になるのか、「株式はどの様に評価」すれば良いのか、「美術品は計算するのか」、又自分の知らない財産があるかもしれません。
まずは、被相続人の相続財産に関する調査が必要となります。その後、多額の遺産を相続した場合やこれから相続する可能性がある場合には税理士への相談が適切です。その場合、多額の遺産を相続する事になった場合、できれば相続税を減らしたいと思うのは誰も同じです。
経理士事務所には、そんな方々へのコンサルティングを提供する事務所もあります。財産把握や相続税の節税を考えたい場合には税理士への相談が有効です。また、被相続人が会社経営者、自営業者、開業医など、会社等法人を相続するというの場合には「事業継承」が必要となります。スムーズな事業継承をするための税務・経営のサポート業務を提供する事も税理士事務所の業務範囲です。また、相続税の対策として被相続人が生前に財産を渡す「生前贈与」という方法があります。残された子供への贈与税の負担を軽減するたに、この生前贈与を相談する人が近年増加しています。
相続問題を専門にサポートする税理士事務所は「節税」「相続税申告」「生前贈与」などの視点から助言・サポートできるのが特徴です。
行政書士は、遺言書の作成、遺産分割協議書作成など、書類を作成する専門家です。また、相続調査(戸籍謄本)、預金・株式の名義変更手続きも行政書士の仕事です。
特に問題の無い相続の場合は、遺言書の作成、遺産分割協議書作成など書類作成だけで相続問題が解決する場合があります。この場合の費用は他の専門家と比べて割りと低く抑えられるのでメリットがあります。
注意点として、行政書士は書類作成とそれに関連した法律の助言等は可能ですが、それらの範囲を超えた相続全体の実務的なサポートは本来対応できません。「複雑な相続」「相続人間でもめそう」「不動産を絡みの遺産」「相続税の申告が必要」など、専門家の助言やサポート、利害に関する交渉などが必要な場合は、弁護士や司法書士・税理士などへの相談する方が一般的です。
専門家には独占業務というものがあると同時に、扱えない業務(扱ってはいけない業務)があります。専門家は自分が扱えない業務を補完するために他の専門家と横の連携を取っています。
ほとんどの専門家が相続業務の元請けとして相続相談を受け、サービスを提供しています。従って、1人の専門家へ多岐にわたる相続問題を相談することは可能ですが、「多岐に渡る問題がありそうだ」「相続税が沢山かかりそうだ」など、場合によっては「主」となってサービスを受ける専門家を選択するのが良いでしょう。
近年では、冒頭で述べた「ファイナンシャルプランナー」も国家資格士としてその一員に加わる事が多くなってきました。
方や、高額なコンサルタント報酬を請求したり、依頼後は提携する専門家に依頼するだけで法外な料金を請求する相続業務の資格を持たない「相続コンサルタント」「相続プランナー」と称する人たちには気を付けなければいけません。これらの業者がすべて悪質であるとは言いませんが、相続の公的手続きは前述のような専門家(士業)しか対応できません。相続に関する相談は士業にするのが間違いありません。