相続の基礎知識
Vol.4
遺言書とは、被相続人が死亡する前に自分の財産処分の方法を記したものとして、基本的には遺産を相続する者や遺産の分配方法を自由に決めることができる、遺産相続において非常に強い効力を持つ書類です。
遺言書は遺産相続の場面では欠かすことのできない重要なものです。
遺言書があるのないのとでは、遺産分割の進み方に大きな差が出てきます。遺産相続の問題は親族間でもめる大きな要素であり、たとえ親しい親族の間でも問題がこじれれば不愉快なトラブルに発展する可能性が多分にあります。
遺言書は相続人によって、自分のみで遺産の相続方法を決定することができるので、このような遺産相続によるトラブルを回避する方法として非常に有効です。故人が望むのは、遺族の遺産相続を円滑に進められるように遺産に関する指示を残した最後の意思表示であり、遺産分割方法の指定、相続人同士のトラブル回避、自分の遺産を自由に扱う旨などを明記できるのです。
ただし、遺言書はその強力な効力があることで、遺言で出来る事と出来ない事があり、また、民法960条に「法律の定める方式に従わなければ、効力を発揮しない」と明記されているように、書き方のルールを順守しないと遺言書としての効力が無効になる場合がありますので、ルールに則った書き方が必要です。
その前に!相続時に遺言書を見つけた時はどうすればいいのか?
では、相続時にその遺言書を見つけた場合どうすれば良いのでしょう?
注意しなければならないのは、相続人が全員納得したうえでも、勝手に開封してしまうと罰金に課せられることになります。また他にも注意しなければならないのは、被相続人が作成する能力が無い重度の認知症であったり、公正証書遺言でも、遺言能力がないのに作成された遺言書の場合は無効になってしまいます。
遺言書の開封や被相続人に遺言能力がないことを証明するのには、裁判所の検認が必要になります。このような裁判手続きは非常に複雑かつ難易度が高いです。専門の弁護士に依頼するのが良いでしょう。
遺言書には【普通方式の遺言書】と、【特別方式の遺言書】の2種類の形式があります。ここではその内容に関してみてみましょう。
遺言書の種類その1【普通方式の遺言書】
この普通方式の遺言書には、以下の3つの形式があります。
1.自筆証書遺言
民法で定められている遺言書の方式としては一番簡単な方法です。まず、遺言者が、書面によって作成します。必要なのは、「遺言書の作成年月日」「遺言者の氏名」「遺言の内容」です。必ず自署で記入する必要があります。パソコンでの作成は不可です。そして自身の印鑑を押印します。
※実印の必要はありませんが、実印のほうが後々確実です。
2.公正証書遺言
遺言者は、法に定められた手続きに従って、公証人に自らの遺言内容を伝えます。公証人は、これを落としこんで遺言書を作成します。幾つかの手順を踏んで作成し、さらに公証人が遺言書を保管するため、効力の確実性という点でより優れた方法です。(もちろん遺言書の効力は自筆証書遺言と同等です。)
遺言書の故意または過失による虚偽の記載、書換え消去や混同が防止でき、作成の責任の所在が明確になることで、後々問題となることがないというメリットがあります。
3.秘密証書遺言
遺言者が、遺言内容に署名、押印し(実印の必要はありませんが、実印のほうが後々確実です)当該遺言書を封筒に入れ封印に押印したものと同じ印章をしたうえで封じ、公証人にこれを提示して所定の処理をしてもらう方法です。この場合、全文が自署である必要はありません。
遺言書の種類その2【特別方式の遺言書】
この特別方式の遺言書は、疾病やその他の理由で死亡の危機に迫られているというような緊急時の場合や、船の事故で死亡する、伝染病などにかかり外界と隔離されている状態であるような特殊なケースに置かれた者が書く遺言書になります。
この特別方式の遺言書には、以下の4つの形式があります。
1.一般危急時遺言
疾病などの事情により死亡の危機に迫られている場合などでは、証人3名以上の立会いの下で遺言をすることができるのです。いろいろな場合がありますが、死期が迫った状況で自ら署名押印ができず、通常に遺言を作成することが困難な場合に行う遺言書になります。この場合、遺言者による自署や書面作成はできないため、立会人の書面作成及び署名・押印が必要になります。
2.難船危急時遺言
遭難中の船舶の中で、死亡の危機に迫られた場合に、証人2名以上の立会いの下で遺言をすることができます。この場合、遺言者の自署や書面作成は不要ですが、証人による書面作成及び署名・押印が必要です。
3.一般隔絶地遺言
まれに伝染病などで隔離されるという状況があります。この場合、交通や外界との接触を断たれた場所にいるため、この者は、警察官1名と証人1名以上の立会いの下で遺言をすることができます。但し、この場合、遺言者の自署及び書面作成並びに署名・押印、更に、立会人による署名・押印が必要になります。
※このような隔絶は、他の行政処分(懲役刑の宣告等)で隔離されている場合にも適応されます。
4.船舶隔絶地遺言
先ほどの難船危急時遺言ではなく、船舶中におり外界から隔絶されている場合、船舶関係者1名及び証人2名以上の立会いの下で遺言をすることができます。この場合、遺言者の自署及び書面作成、署名・押印並びに立会人による署名・押印が必要です。
遺言書の効力その1【相続分の指定】
遺言書の効力としてもっとも一般的なものは「相続分の指定」です。これにより法定相続分である程度決まっている遺産の取り分でも、遺言者が自由に決定することができます。
これは、民法第902条「遺言による相続分の指定」に則ったものです。
遺言書の効力その2【遺産分割方法の指定と分割の禁止】
遺産分割の方法についても、遺言者が決められることが民法第908条で決められています。また、その遺産分割方法を決める事を第三者に委託することも可能です。さらに、相続開始の時から5年を超えない期間であれば、遺産の分割を禁ずることもできるのです。
これは、遺産分割では揉めた場合、冷却期間を持ちなさいという意味合いもあるようです。
その他、状況に応じた細かな指定について
1.相続財産の遺贈(処分)について
遺言者の財産は、法定相続人(配偶者や子など)に相続されるというのが原則ですが、遺言者は、法定相続人とならない第三者(例えば、お世話になった人など)や団体に対して、相続財産を遺贈する事が出来ます。
2.遺言の執行について
遺言者の死亡により、残された子が未成年で、親権者が不在となるような場合、遺言者は、第三者を後見人として、当該未成年者の財産管理等を委ねる事が出来ます。
3.遺言執行者の指定または指定の委託について
遺言者は、相続財産の名義変更、預貯金の名義変更や土地の変更登記のような事務手続のような「遺産相続を実施する上で必要となる手続」を行う人(遺言執行者と言います)を指定したり、第三者に指定を委任することが出来ます。
4.相続人相互の担保責任の指定について
法律上、相続した遺産に欠陥があったり、他人の物であったりした場合、その他の相続人が担保責任を負うことになります。遺言者は、この担保責任を負担する者や負担する割合について遺言により指定する事が出来ます。
5.内縁の妻と子について
婚約をしていない女性との間に出来たいわゆる隠し子がいる場合、遺言者は、遺言でこれを認知する(正式に自分の子であると認める)ことで、子として相続人に加える事が出来ます。
【注意!】遺留分は遺言書でも侵害できない。
先ほど紹介した「民法第902条」ですが、下線部に注目してもう一度読んでみましょう。
ここにあるように、法定相続人に対しては遺言によっても除外できない一定以上の相続分(遺留分)が定められています。遺言書の遺言の内容が遺留分を害する場合、相続人は、「遺留分減殺請求」によって当該害する遺言部分を無効とすることが出来ます。
特定の人物を「相続人から廃除」できるケース
最後に、「相続人の廃除等」に関する民法に定められた条文を紹介します。これらの事由に当てはまる場合は、遺言書の内容とは関係なく相続人の権利を無効とされ、たとえ法定相続人であったとしても、相続を受けられなくなる場合があります。
民法第893条では、相続予定人が法定の廃除事由である被相続人への虐待や重大な侮辱行為など、その他の著しい非行などが認められ、かつ被相続人がその相続人に遺産を渡したくない場合に、当該相続人の相続権を消失させることが出来ることが定められています。
また、民法第891条では、過去に犯した犯罪などの理由によって、そもそも相続人となることができなくなる「相続人の欠格事由」なども定められています。
強い効力を持つ遺言書ですが、を正しく踏まないと効力が無効になる場合があります。元々、遺言者は、遺族が揉めない、家族がいつまでも仲良くしてほしいとした遺言書を書くのですが、きちっとした書き方や手順を間違えると無効になりますので、注意が必要です。自信がない、もしくはわからない場合は、事前に弁護士などの専門家にご相談ください。
遺言で出来る事と出来ない事があり、書き方のルールを順守しないと、遺言書としての効力が無効になる場合がありますので、ルールに則った書き方が必要です。そこで続いては、遺言書の効力が無効になってしまう場合について考えてみましょう。
1.「自筆証書遺言」の場合
例えば以下のような遺言書は認められませんので注意が必要です。
2.「公正証書遺言」の場合
公正証書遺言は公証人の適切な手続によって作成しますので無効となることは極めて稀ですが、以下のような点を確認しましょう。
3.「特別方式遺言書」の場合
特別方式遺言書の場合は、以下に民法を引用させて頂きましたので参考にしてください。細かなご相談は、弁護士などの専門家にご相談くださいますようお願いいたします。